最近、IT系の記事でDX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉をよく見かけるようになっています。しかし、専門外の人にとっては意味不明で、何をどうしたらいいのかわからないのではないかと感じています。
ということで、ライターとしてこのDXをできるだけ理解できるように解説してみようと思います。「IT業者の説明を聞いていてもわからない」とお困りの方は、ぜひ参考にしてください。
「デジタル化?」「IT化?」「DX?」業者の言うことは何が何だか・・・
DXについてきちんと理解するためには、基本的な用語についてきちんと理解する必要があります。
しかし、単語の解説はどこにでもありますし、それを読んでも今ひとつわかった気がしないのがDXの難しいところで、この問題をスルーしたまま間違った方向でDXを進めようとしている企業は多いです。IT系のメディアでの失敗事例では、DXそのものを勘違いして推進し、失敗(予算の無駄)に終わった例が少なくありません。
IT系の業者というのは、頭の中に情報化の普及や進歩の流れが前提としてあって、それを元に提案をしてきます。しかし、提案を受ける側の非ITの業種の担当者や責任者には、その歴史が頭にないために誤解が多いのです。
そこで、正しい理解のために、企業における情報化という視点から少し歴史を追ってみましょう。
(あくまで個人的な視点で、年代はかなり大雑把なものです。ご了承ください)
1990年代:「デジタル化」が一般的に始まる
今から約30年ほど前、まだまだ企業においてもコンピュータは一般的ではありませんでした。
90年代前半は、ワープロによる文書作成が行われていれば良い方で、まだまだ手書きの文書や、文房具店で売られている各種のフォーマットがオフィスで幅を利かせていることが多かった時期です。
90年代後半になり、コンピュータの性能が上がって値段が下がってきた頃から、さまざまな文書をデータにしていく動きが出始めました。帳簿につけていた経理の数字が表計算ソフトやデータベースに、文書もフォーマットだけでなく内容も打ち込みが増えていきます。
このように、元々手書きで入力していた文字や文書フォーマットをデータで作成するようになったのが「デジタル化」です。これにより、文書作成の時間が短縮されるようになり、また可読性も向上し、情報処理速度が高くなりました。
2000年代:「IT化」が始まる
1990年代後半から2000年代にかけて、パソコン、インターネットや電子メールといった方法が一般的に普及し、「IT化」と呼ばれる現象が起こります。
デジタル化は文書をデータで作成することで、可読性や再利用性、保存性の向上などが主なメリットになっていましたが、IT化ではデータ化することによって「情報の活用」というメリットが大きくなりました。
これはWebサイトや電子メールなどのインターネット技術による情報伝達や、数字情報の計算処理といった技術が大きく進んだことが背景で、ビジネスのあり方にも大きな変化をもたらしました。
加えて、携帯電話やスマートフォン、タブレットといった新しい情報端末がその利便性を高め、IT化の促進に大きく貢献しました。
IT化の特徴は、情報を活用することにあります。
従来のデジタル化においては情報の記録や保存は行っていましたが、その情報の処理や分析は人間が行っていました。
それがIT化によって、システムが情報の処理や分析を行ってくれるように徐々に変わり始めたのです。
たとえば、会計ソフトなどでは、日々の数字を入力していけば帳簿ができあがり、企業の経営数字が分析できるようになりました。
営業管理用のCRMやSFAでは、目標に対する売上の進捗率や商談の成功率なども数字で分析できるようになります。
コンサルタントや業界のトップランナーたちは、自社の持つデータやノウハウから精度の高い目標数値を割り出し、それに経営数字を近づけるような努力を行うようになりました。
2010年代:「ユビキタス化」が進む
2000年代の半ば以降、スマートフォンの発達や、スマートフォンとパソコンの中間にあるタブレット端末などのモバイル機器が増え、社会的にもモバイル用のインターネットインフラが増えていきます。
この頃から「ユビキタス化」という言葉が出てきますが、これはいつでもどこでもネットワークに接続し、必要な情報にアクセスできるような状態を意味しています。当時はよくわかりませんでしたし、今でもよくわからないと言われることの多い単語です。しかし、現代ではもはや当たり前の環境と言っても過言ではありません。
さて、このユビキタス化では、デバイスとインフラの進歩に加えて、もうひとつ重要な技術として「クラウド」があります。
クラウドというのはインターネット上に置かれたサーバー群を言い、これを使ってさまざまなサービスを提供する技術を言います。
クラウドの画期的なところは、サーバーの保管やメンテナンスを専門企業が行い、利用する企業がサービス開発に集中できるようになったことや、サービスを開始した後にも随時アップデートが可能になったことです。
そのため、従来よりもサービスが高速に開始できるようになり、運用コストも下がりました。多くの企業が情報公開やサービス作成に取り組んだ結果、多くの情報に対して人々がアクセスできるようになったのです。
また、さまざまな専門分野の知識とITを掛け合わせる「●●テック」の動きが2010年代後半に起こり、フィンテックやHRテック、セールステックなどの新しい技術によって業務やサービスのあり方が大きく変わり始めます。
2020年代:「DX化」を進めよう
さて、そんな歴史を受けてのDX化がこれからのテーマです。
DXというのは、「ITを活用することで新しい価値やよりよいビジネスのあり方を生み出すこと」と考えておけばOKです。「ITを活用したイノベーション」という考え方でも間違ってはいないと思います。
デジタル化は「情報のデータ化」、IT化は「データ化した情報の活用」でしたが、DXで求められるのは「抜本的な構造変化」です。
たとえば、古い例ならDELLが「インターネットを利用し、メーカーが直接個人の注文を受けて必要なパソコンを作って発送する」というものもDXと言えるでしょう。従来はメーカーは販路を持たず、販売店を通して販売するため価格も高くなりがちでしたが、インターネット上での直売によって中間費が圧縮されて販売価格は下がり、在庫も減らすことができるようになりました。
Googleが検索エンジンとしてまず価値あるサービスを無料で提供し、その後に広告を使って稼ぐモデルを作りましたが、これもDXのひとつの形です。
今までアーティストは制作物によって評価や収入を得ていましたが、手軽な動画配信ができるようになったことで、制作プロセスを公開して課金することもできるようになりました。手法としてはアイドルグループをオーディションから追いかけるものに近いですが、それが絵画や壁画アート、書道などの世界にも広がり始めています。
農業の世界では、IoTによる土壌や気温の状態管理や、ハウスの一元管理などが可能になっています。また、AIによる画像判断での等級管理なども可能です。顧客に農作物の生産過程から見守ってもらい、収穫後に現物を直接送付するという新しいスタイルの農業も行われています。
こうした活動は、必ずしも最新の装置や技術を必要とするわけではありません。生産性や収益構造を大きく変えるために、 新しい技術や新しいサービスに注目し、積極的に取り入れることがDXでは大切です。
「IT化は、ビジネスプロセスの整理や改善には役立ちますが、そこにとどまらずに抜本的な変化を起こすことが「DX」の真骨頂です。
現在導入が進んでいるリモートワークも、DXの大きな契機ですが、単純に会議や営業活動をリモートにしただけではDXにはなりません。リモート化に合わせてビジネスのあり方や自社の優位性を新たにするほどに変化があってこそDXに成功したと言えるでしょう。
何をすればDXなのかは企業によって異なりますが、ITを導入して効率化するという観点ではなく、「ITを使えばこういうこともできるのではないか?」というゼロベース思考がDXを促進するのではないかと感じます。
AIやビッグデータ、IoTや5Gなどの技術、クラウドで提供されるさまざまなサービスは、あくまでそのための道具に過ぎません。
DXで大事なのは「ビジョン」です。ドラえもんではないですが、「こんなこといいな、できたらいいな」ということを雑談レベルで語り合うのも効果的ではないでしょうか。ビジョンが形になったときこそ、DXに成功したと言えるのだと思います。
まとめ:DXとは「ITによるビジョンの実現」である
ここまで、日本における情報化の歴史を追いながら、よくわからない「~化」について説明してきました。DXとは何か?という疑問に対する結論は、「ITによるビジョンの実現」だというのが一番わかりやすいと思います。
たとえば、営業なら、
- デジタル化: 営業資料や契約書の電子化
- IT化: メール営業や電子化した資料の最適化・共有
- DX化: 営業活動しなくても顧客が勝手に増える
みたいな感じです。ぜひ、ちょっと飛躍した未来を考えて、実現できそうかどうかを同僚や専門家と相談してみてください。それがDX化の近道です。
私もAIを使ってワンクリックで文章書けないかと何度も挑戦しています(3年くらい上手くいってませんが・・・)。